人間は迷ったとき必ず何かを見つけることができるものです。私は、見聞をひろめるためではなく、迷うために旅に出たのでした。
安野光雅『旅の絵本』
物心ついた頃、子ども部屋の本棚に並んでいたのが安野光雅の絵本でした。中でも『旅の絵本』『もりのえほん』は特に印象的で、言葉が一切書かれていない絵本でした。『もりのえほん』は森と川と山の緻密な絵が見開きいっぱいに書かれていて、木々の葉の陰影が動物になっているのを見つけて楽しむ絵本で、よく弟と一緒に「ここにライオンがいる!」と探しあって楽しみました。『旅の絵本』はひとりの旅人がどこか果ての方からやって来て、歩いているうちにやがて大きな街に行き当たり、街を抜けてまた遠くどこかへ渡っていく、その様子が文字もなく絵だけで展開されていきます。描かれる景色には日々の営みを続けている人々が描かれており、絵を眺めながら勝手にあれこれとストーリーを考えました。だからか『旅の絵本』は何度も何度も読んでその度に新しい楽しみ方ができました。僕のクリエイティブの原点です。この『旅の絵本』のあとがきに書かれていた言葉が今回ピックアップした言葉です。迷った時に何かを見つけることができるのであれば、何かを見つけたくて迷うために旅に出る、というのは面白い考え方だなと大人になってからこのあとがきをあらためて読んで思ったものです。この言葉と出会ってから迷った時に怖さに支配されることがいくらかなくなったような気がします。道標のようなとても大事な言葉です。
2022.06.14